片持ち先細翼の曲げモーメントについて(その1)
佐藤先生の論文解説シリーズの第1弾です。論文の式や内容を追いつつ、私のコメントを入れていくスタイルをとります。またオリジナルの本文は章立て等行われていないため、内容に応じて項目毎に分けて記載します。
掲載誌と発行時期
九州大学工学集報第26巻第3号 昭和28年10月3日受理
何について書いてあるのか?
内容
捩じり下げの無い翼に対して、翼スパンに沿う風圧荷重を均等であると仮定する。翼の直線区間と先細比を変化させたとき、曲げモーメントと剪断力はどう変化するのか?
得られる結果
翼の平面形において翼根からの直線距離が短いほど、翼根対して翼端が小さいほど、翼根の曲げモーメントは小さくなる。また、風圧荷重分布が楕円翼に近くなるような先細比と(翼平面形における)直線部の組み合わせが存在する。
本文解説
安全側になるような主翼強度の規定
論文の手法を紹介する前に、戦前の飛行機における強度規定について記載している。
「翼の断面形または取付角が翼幅に沿い変化しない翼、すなわち捩じりのない翼では、風圧分布は翼端部分で$t_m$(平均翼弦)の長さで$p_{0} k g / m^{2} $から$ep_0$に直線的に減るものとしてよい。減少率eは大迎角では0.8、小迎角では0.5」
この規定に関しては1940年頃の航空工学便覧にあるようです。この文章の通りに風圧分布のグラフを描くと以下のようになります。ここでは翼根の風圧を$p_{0}=1 k g / m^{2} $と仮においています。
今度は翼根から翼端までの減少率が$e$の割合で減少するとして考えます。
こちらの方が自然に見えます。おそらくこのことを指していると思います。
以上の手法に対して、論文中では「翼幅に沿う風圧力$p_{0} k g / m^{2} $の分布を翼端現象のない均等なものと仮定して」計算しています。さらに、「直線平面形の先細、片持ち翼の翼幅に沿う各断面の剪断力、曲げモーメントを求める図表を作り、そして設計上からは、どんな平面形の翼が最も有利であるか」計算の上で検討した結果を示しています。
主翼の仮定
左右の主翼面積が$S[m^{2}] $、片翼が$S_{1}=S/2[m^{2}] $、全翼スパンが$l=b[m] $、片翼スパンが$l=b/2[m] $とします。先細比$k$とテーパーがかかる区間の割合$m$を導入する。以上の情報をまとめると以下の図のように示されます。
区間ごとの翼幅荷重の計算
テーパーが掛かっていない区間(OA間)の翼弦$t_{0}$は、まずテーパーがかかる区間の面積を$S_{1}^{\prime}$として、
$$S_{1}^{\prime}=(t_{0}+kt_{0})ml/2=t_{0}(1+k)ml/2 [m^{2}]$$
テーパーがかからない区間の面積は
$$S_{1}-S_{1}^{\prime}=t_{0}(l-ml)=t_{0}l(1-m) [m^{2}]$$
上式を変形して
$$t_{0}=\frac{2S_{1}}{l\{2+m(k-1)\}} [m]$$
AB間の区間の翼弦は、この区間の翼弦の変化率が、
$$(t_{0}-kt_{0})/ml$$
初期値が$kt_{0}$、最終値が$t_{0}$の直線を考えると、Bからの距離xでの翼弦$t_{x}$は
$$t_{x}=kt_{0}+\frac{\left(\mathrm{t}_{0}-\mathrm{kt}_{0}\right)}{\mathrm{ml}} \mathrm{x}=\mathrm{t}_{0}\left\{\mathrm{k}+\frac{(1-\mathrm{k}) \mathrm{x}}{\mathrm{ml}}\right\}[m]$$
$S_{1} [m^{2}]$の片面翼に、$L/2=L_{1}[kg]$の風圧荷重が均等圧力で分布する場合、OA区間の翼幅荷重は、
$$p_{0}=\frac{\mathrm{L}_{1}}{\mathrm{~S}_{1}} \mathrm{t}_{0}=\frac{2 \mathrm{~L}_{1}}{\{2+\mathrm{m}(\mathrm{k}-1)l\}}[kg/m]$$
AB部分の翼幅荷重は
$$p_{x}=\frac{\mathrm{t}_{x}}{\mathrm{~t}_{0}} (\frac{\mathrm{L}_{1}}{\mathrm{~S}_{1}} \mathrm{t}_{0})=\frac{\mathrm1}{\mathrm{~t}_{0}}\mathrm{t}_{0}\left\{\mathrm{k}+\frac{(1-\mathrm{k}) \mathrm{x}}{\mathrm{ml}}\right\}p_{0}=\left\{\mathrm{k}+\frac{(1-\mathrm{k}) \mathrm{x}}{\mathrm{ml}}\right\}p_{0}[kg/m]$$
区間ごとの剪断力の計算
次に各区間の剪断力を求めます。AB間の剪断力は、
$$Q_{x}=\int_{0}^{\mathrm{x}} \mathrm{p}_{\mathrm{x}} d x=\left[\mathrm{k}_{\mathrm{x}}+\frac{(1-\mathrm{k}) \mathrm{x}^{2}}{2 \mathrm{ml}}\right]_{0}^{\mathrm{x}} \mathrm{p}_{0}=\left\{k+\frac{(1-k) x}{2 m l}\right\} \mathrm{p}_{0} \mathrm{x}[kg]$$
特にAの位置では、
$$Q_{A}=\frac{m l}{2}(1+k) p_{0}[kg]$$
OAの区間では、
$$Q_{\mathrm{X}}=\int_{0}^{\mathrm{x}} \frac{2 \mathrm{~L}_{1}}{\{\{2+\mathrm{m}(\mathrm{k}-1)\}} \mid \mathrm{dx}=\frac{2 \mathrm{~L}_{1} \mathrm{x}}{\mathrm{l}\{2+\mathrm{m}(\mathrm{k}-1)\}}+\mathrm{Q}_{\mathrm{A}}=\mathrm{p}_{0} \mathrm{x}+\mathrm{Q}_{\mathrm{A}}$$
$$=\mathrm{p}_{0} \mathrm{x}+\frac{\mathrm{ml}}{2}(1+\mathrm{k}) \mathrm{p}_{0}[kg]$$
Oでの剪断力は、$x=(1-m)l$として
$$\mathrm{Q}_{\mathrm{0}}=\mathrm{p}_{0} \mathrm{l}\left\{1-\frac{\mathrm{m}}{2}(1-\mathrm{k})\right\}=\mathrm{L}_{1}[kg]$$
曲げモーメントの計算
次に曲げモーメントを求める。AB区間の曲げモーメントは、
$$\mathrm{M}_{\mathrm{x}}=\int_{0}^{\mathrm{x}} \mathrm{Q}_{\mathrm{x}} d x=\left\{\frac{1}{2} \mathrm{kx}^{2}+\frac{1}{6} \frac{(1-\mathrm{k})}{\mathrm{ml}} \mathrm{x}^{3}\right\} \mathrm{p}_{0} $$
$$=\frac{x^{2} p_{0}}{2}\left\{k+\frac{(1-k)x}{3 m l}\right\}[kg×m]$$
特にAでは、
$$\mathrm{M}_{\mathrm{A}}=\frac{\mathrm{m}^{2} \mathrm{l}^{2} \mathrm{p}_{0}}{2}\left\{\mathrm{k}+\frac{(1-\mathrm{k})}{3}\right\}$$
OA区間では
$$\mathrm{M}_{\mathrm{x}}=\mathrm{M}_{\mathrm{A}}+\int_{0}^{\mathrm{x}} \mathrm{p}_{0} \mathrm{x}+\frac{\mathrm{ml}}{2}(1+\mathrm{k}) \mathrm{p}_{0} \mathrm{dx}=\mathrm{M}_{\mathrm{A}}+\frac{1}{2} \mathrm{p}_{0} \mathrm{x}^{2}+\frac{\mathrm{ml}}{2}(1+\mathrm{k}) \mathrm{p}_{0} \mathrm{x}$$
Oでは、$x=(1-m)l$として
$$M_{0}=\left\{1-m(1-k)\left(1-\frac{m}{3}\right)\right\} \frac{p_{0}}{2} l^{2}[kg×m]$$
剪断力と曲げモーメントの計算
仮定翼の計算
片翼面上$S_{0}$の負担荷重($L_{1}=1000[kg]$)として、$m=1.0,0.8,0.6,0.4,0.2$そして$k=0.8,0.6,0.4,0.2,0.0$のそれぞれの組み合わせに対して、翼幅$l$上の各断面における剪断力と曲げモーメント$M/l[kg]$を求めます。なおここでは仮定翼の翼幅$l$は$l=15m$としています。
翼幅荷重
剪断力
曲げモーメント
計算したい翼の計算
このようにして求めた剪断力と曲げモーメントは片翼面上$S_{0}$の負担荷重($L_{1}=1000[kg]$)として計算されたものです。このため、実際に計算したい翼の荷重が
$L_{2}$、片翼の長さが$l_{2}$のとき、
$$(求める剪断力Q)=(L_{1}=1000[kg]の時のQ)×\frac{\mathrm{L}_{2}}{\mathrm1000kg}[kg]$$
$$(求める曲げモーメントM)=(L_{1}=1000[kg]の時のM/l)×\frac{\mathrm{L}_{2}}{\mathrm1000kg}×l_{2}[kg×m]$$
ここでは例として片翼にかかる荷重が$90kg$、片翼スパンが$7.5m$として計算しました。
剪断力
曲げモーメント
この計算で分かること
以上に示した仮定翼の剪断力と曲げモーメントのグラフから、
「翼端が翼根に対して細いほど(kが小さい)、さらに並行部分が短い(mが大きい)ほど、翼根の曲げモーメント$M_{0}$が小さくなる」
ことが分かります。
さらに、翼根の曲げモーメントをなるべく小さくして、翼の翼幅荷重分布を楕円翼に近づけるには$m=0.74,k=0.36$の組み合わせが最適であることも論文中に示されています。これについては本記事のメインではないので、詳しい計算については割愛します。片翼スパンが15mで翼根の翼弦が3mとしてこの翼を描くと以下のようになります。
この図を見ていると、実際にありそうな翼の平面形に見えてはきませんか?よくある翼の形には何らかの理由があるものです。
MATLABプログラム
以下のGoogle driveリンクに、今回使用したMATLABプログラムを置きます。計算したい翼の数値は11から17行目に入力して、$m$の値は26行目で指定できます。プログラムでは例として片翼$L_{2}=90kg,l_{2}=7.5m$で$m=0.2$の場合で計算しています。これらの値にたいして$k$の値を計算してグラフにしています。ちなみに、20行目の仮定翼にかかる荷重$L_{1}$の値を、14行目の計算したい翼の荷重$L_{2}$と等しくすると、計算したい翼の翼幅荷重を「仮定の翼の翼幅荷重」のグラフで見ることが可能です。
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