航空機の設計について2;概念設計その1

記事の説明 

この記事シリーズは、航空機の専門書として有名な"Aircraft Design  A Systems Engineering Approach"の中で、整理したい箇所をまとめた備忘録です。機体の設計について学んでいると「この計算は設計のどの段階で行うものなのか?」と迷うことがあります。このような自分の為に整理したメモをこのシリーズで書いていきます。


この記事は第3章の内容を参考にしています。

目次

機体の概念設計とは?

概念設計で得られるのは、主に機体の構成を表す三面図です。三面図を描くまでに様々な評価が行われるのですが、計算によるものは多くないはずです。機体の構成要素の選択(どのような主翼、胴体、尾翼、着陸装置、エンジンを採用するか?)が主な作業です。

機体の構成要素とその機能

構成要素を選択する前に、各要素の機能を知る必要があります。

1.主翼

主翼の主な機能は、「機体を空中に保つ為の揚力を発生させる」ことにあります。主翼では揚力が発生すると同時に、誘導抗力とピッチングモーメントも発生します。揚力、抗力を発生させる他に、機体の横方向(Roll軸回り)の安定性を決めています。

2.胴体

胴体の主な機能は、人や貨物等のペイロードを収容することにあります。尾翼が縦方向の安定性を維持出来るように、ある程度の長さが必要です。(機体に求められる要求で変化します)長さが足りない場合は、後方にブームを設ける必要があります。

3.水平尾翼

水平尾翼の主な機能は、機体の縦方向を安定させる事にあります。水平尾翼は水平安定板とエレベータの2つに分けられ、可動部であるエレベータを用いて縦方向の制御と操縦を行います。

4.垂直尾翼

垂直尾翼の主な役割は、機体の方向安定性を維持する事にあります。垂直尾翼は垂直安定板とラダーの2つに分けられ、可動部であるラダー(とエルロン)を用いて横方向の制御と操縦を行います。

5.エンジン

エンジンは機体の推進力を発生させる為に搭載されます。洋書では「エンジンを設計」との言葉がありますが、正確には「既存のエンジンから選択」が正しいです。基本的には公開されているエンジンやモーターのスペックを基に選択していきます。エンジンを機体と同時、もしくは直前に開発する事が出来るメーカーなら「エンジンを開発」で良いとは思います。

6.着陸装置

着陸装置(landing-gear)の主な機能は、離陸と着陸での操作を容易にする事にあります。例えば離陸時には着陸装置の車輪が転がることで、摩擦に打ち勝つための大きな推力を使うことなく加速することが出来ます。

機体構成の選択肢

主翼から着陸装置に関して、既存の選択肢を列挙します。各構成の利点と欠点は後の項目で説明します。

1.主翼の構成

翼の数

  1. 単葉機
  2. 複葉機
  3. 三葉機

翼の位置

  1. 高翼
  2. 中翼
  3. 低翼

翼の平面形

  1. 長方形
  2. テーパー型
  3. デルタ
  4. 後退翼
  5. 前進翼
  6. 楕円翼
前進翼はあまり見られません。有名な機体としてはNASAのX-29でしょうか。

高揚力装置

  1. プレーンフラップ
  2. スプリットフラップ
  3. スロットフラップ
  4. クルーガーフラップ
  5. ダブルスロットフラップ
  6. トリプルスロット・フラップ(Triple-slotted flap)
  7. 前縁フラップ
  8. 後縁スロット

翼の後退角の変化

  1. 固定
  2. 変化
多くはありませんが、後退角が変化する機体はあります。有名なのはF-14でしょう。

翼型の形状

  1. 固定された翼型
  2. 変化する翼型(モーフィング翼)
普通はフラップ動作時以外に翼型が変化する事はありません。しかし翼型そのものを変化させる方法として、モーフィング翼が存在します。有人機での採用例はこれまでありませんが、実験や研究用途の無人機で使用された事例は多くあります。



主翼を支える方法

  1. 片持ち翼(Cantilever)
  2. 支柱によって支える方法(Strut-braced)

支柱によって支える方法には、フェアリングで覆う場合と覆わない場合があります。空気抵抗の低減を目的にフェアリングを付けると思われます。


2.尾翼の構成

一般的に尾翼の構成は以下の3つの要素に分解されます。

胴体での位置

  • 胴体後方(Aft tail 一般的な構成はこれです)
  • カナード(Canard)
  • 3面(Three surface)
カナード方式の機体はこちら。戦闘機だけに採用されている訳ではありません。

「3面(Three surface)」の方式は、垂直尾翼と水平尾翼が胴体の両端に分かれている方式を指すと思われます。その方式でしたらこの機体が当てはまります。


水平尾翼と垂直尾翼の関係

  • 水平尾翼の上に垂直尾翼(一般的な構成はこれです)
  • V字型
  • T字型
  • H字型
  • 逆U字型
逆U字型はおそらく、水平尾翼の両端から下側へ垂直尾翼が出ている形式と思われます。

3.推進システム構成

機体の推進システムは以下の要素から選択出来ます。

エンジンの種類

  • 人力
  • 太陽電池式
  • ピストン式
  • ターボプロップ
  • ターボファン
  • ターボジェット
  • ロケット

エンジンの位置(胴体での前後関係)

  • プッシャー
  • トラクター

エンジンの位置(翼や胴体内外についての位置関係)

  • 機首前方(内側)
  • 胴体中央部の内側
  • 翼の内側
  • 主翼上面
  • 翼下
  • 垂直尾翼の内側
  • 胴体後部の側面
  • 胴体上面

エンジンの数

  • 単発エンジン
  • 双発エンジン
  • 三発エンジン
  • 四発機
  • マルチエンジン(5基以上のエンジン数)
5基以上のエンジンの機体はあまり見られませんが、以下に事例を示します。
Antonov An225 Mriyaはロシア軍に破壊された機体として、一時期ニュースで紹介されていました。






4.着陸方法の選択

着陸方法(装置?)の構成は、次の3つの要素から選択することができます。

ランディングギア機構

  • 固定式(フェアリング有、またはフェアリング無)。
  • 格納式
  • 部分的に格納可能

ランディングギアタイプ

  • 三脚(ノーズギアとも表現する)
  • テールギア(テールドラッガーまたはスキッド)
  • 自転車(タンデム)
  • マルチホイール
  • フロート式
  • 取り外し可能
三脚は普通の旅客機の配置と同じです。また「テールギア」は主翼から2本の脚が出て、胴体の尾部に尾輪またはソリをつけた形式です。タンデム方式の事例は少ないですが、有名どころとしてはU-2でしょうか。

離着陸を行う場所

どこで離着陸を行うかも、着陸方法の要素の一つです。選択肢としては以下の候補が挙げられます。
  • 陸上
  • 水上
  • 水陸両用
  • 船舶からの発進(空母を指していると思われます)
  • 人の肩の上から(小型リモコン機用を手で投げる場合)
  • カタパルト

まとめ

機体の概念設計は、ある程度の選択肢の中から選ぶ作業といえます。ただし、機体に求められる要求を反映しなければなりません。要求次第では、以下のような機体も概念設計では可能です。
超音速複葉機 MISORA
東北大学 流体科学研究所 融合流体情報学研究分野 大林研究室

低騒音STOL実験機「飛鳥」

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